本書は成城石井の創業者である石井良明氏による、創業から約30年に渡る、成長発展の記録である。
その時々のビジネスチャンスに対して石井氏がどの様に対応して来たかを記した社史である。
成城石井は、成城学園と言う国内でも有数の富裕層が好んで住む街で、そのお客様にふさわしい高品質の品ぞろえを低価格で提供して行くことをコンセプトとして定めた。
そしてそのコンセプトによる経営努力を続け、その商品力を追い求めた結果、その独自性は、もはや成城の街にとどめず、多様な場所でも通用するものとなった。
1号店を開店して12年の歳月をかけて多店舗化するという用心深く丁寧な経営姿勢こそが成城石井の強さである。
著者は、1965年に成城学園駅前にオープンした「オダキュー OX」が実家の石井食料品店の目と鼻の先に出来たとき、その多くのお客様がみな「オダキュー OX」に行ってしまう悔しさを糧に、その後弛まない経営努力を重ねることになる。
多くの人が「これからはスーパーマーケット時代だ」と話題にしている中で、将来のスーパーマーケットの構想を描いていたとのことであった。
成城石井はあらゆる努力を惜しまず、研究に研究を重ねて、日本中はもとより海外にまで出かけてお客様にお喜びいただける商品を探してくる。
ユニークな商品を仕入れて販売する姿は情熱に溢れており、「経営の美学」さえ感じる。
日本で最初にできたセルフサービス形式のスーパーマーケットは、1953年に始まった青山の紀伊国屋に端を発する。
1956年には西友が、1957年にはダイエー、1961年にヨーカ堂がレギュラーチェーン化を始めている。
アメリカでは、1962年ウォルマートの1号店が出来て世界的にもこの時期小売業が転換期を迎える。
そして1970年代には各地で大型スーパーマーケットの出店が急増しては、潰れてしまったりと、社会問題化する。
その頃に石井氏は両親の後を引き継いで1973年代表取締役に就任した。
1970年代は日本のスーパーマーケットが大きく変化する激動の時代であった。
1973年は日本でのコンビニエンスストア、セブンイレブンの第一号店が東京都江東区豊洲に出店した年でもある。
著者は大きなきっかけ3つに出会って、その後の経営に大きく方向を定める。
一つは、同年メルシャンが主催した、小売業の為のヨーロッパワインツアーに参加してワインとそのワインの師との出会いである。
2つ目は、たばこのセミナーの講師から聞いた「人間は、与えられた条件の中で努力しなければいけない。そこに価値がある」と言う言葉が心に突き刺さったこと。
そして、3つ目は、1973年の第1次オイルショック、第4次中東戦争の深刻な影響を受けて会社が赤字に陥ってしまったことである。
仕入れ価格と販売価格のコントロールが出来ずキャッシュフローが大きくマイナスになってしまった。
2つ目のきっかけである「与えられた条件の中での努力こそ価値がある」との言葉を自己の現状と照らした時に、それを実践することとは、今、自分でなければ出来ないことをするべきであるとの思いに当たり社長である父に、「社長をやらせてください」と、直談判する。
そして32歳で社長に就任する。
成城石井としての一貫したコンセプト定める。
お客様の満足の為なら例え地の果てまででも商品を探し歩く。
現場での仕入れを直接目で見て直した。
それは商品戦略、経営戦略、人事戦略の全てにおいて緻密である。
目標数値が明白で解りやすく伝わりやすい、経営のシステムを設計した。
その実践の結果、いつしか「成城石井が有る町に住みたい」との消費者の声が上がるまでになった。
約30年に渡って、スーパーマーケットの経営を謙虚に真剣に、そして「素直な姿勢」で取り組んで来た姿に大変感銘を受けた。
また、専門家の意見を好んで聞き、専門家を招きそのアドバイスを聞き大きく活用するとても学び上手な姿に大きな学びを得た。
著者の懐の広さ、状業員に対する愛情の深さは感動的であった。
経営者の大先輩として学ぶことが多く、とても得難い本であった。
事業とは何を目的に如何に努力していくものなのか、その真理に触れる事が出来る一冊であった。
どうすればお客様によりお喜びいただけるのか、企業をより高い水準に成長させるには何が必要なのか、より深く探り研究して行きたい。
この本との出会いに感謝の念が強く湧いた。